フランスのプロサッカーリーグ「リーグアン」は、1932年の創設以来、数々の名クラブがその覇権を競い合ってきました。その優勝トロフィーは、フランスの国土の形から「ヘキサゴール(六角形)」と呼ばれ、多くの選手たちの憧れの的であり続けています。
リーグアンの歴史は、特定のクラブが時代を支配する「王朝」の興亡によって彩られています。私がこのリーグの歴史で特に興味深いと感じるのは、時代の移り変わりと共に、リーグを支配するクラブのタイプが劇的に変化してきた点です。
この記事では、リーグアンの創設から現在に至るまでの全優勝クラブを徹底的に解説します。歴代の優勝回数ランキングから、各時代を象徴する偉大な「王朝」、そしてシーズンごとの全記録まで、リーグアンの歴史を網羅的に紐解いていきます。
リーグアン歴代優勝回数ランキング
フランスサッカーの頂点に立った回数は、クラブの格を示す重要な指標です。ここでは、どのクラブが最も多く「ヘキサゴール」を掲げたのか、トップクラブから順に紹介します。
1位|パリ・サンジェルマン (PSG) – 新時代の絶対王者
現在のリーグアンを象徴するクラブが、パリ・サンジェルマン(PSG)です。2011年のカタール資本による買収以降、圧倒的な資金力を背景にリーグを席巻しています。
これまでに13回の優勝を誇り、フランスサッカー史上最多優勝クラブとして君臨します。特に2010年代以降の dominance は凄まじく、キリアン・エムバペのような世界最高峰の選手を擁して、国内では絶対的な地位を築き上げました。
2位|ASサンテティエンヌ – 伝統の「緑」の巨人
PSGに抜かれるまで、長らくフランス最多優勝記録を保持していたのがASサンテティエンヌです。彼らは10回の優勝を誇る、フランスサッカーの伝統的な名門です。
特に1960年代から70年代にかけて黄金時代を築き、リーグ4連覇を達成しました。工業都市の誇りを背負った「緑」のユニフォームは、当時のフランスサッカーの象徴でした。
3位|オリンピック・マルセイユ – 栄光とスキャンダルの名門
フランスで最も熱狂的なファンを持つとされるのが、オリンピック・マルセイユです。優勝回数は9回を数えます。
1980年代後半から90年代初頭にかけてリーグ4連覇を達成し、1993年にはフランスのクラブとして唯一となるUEFAチャンピオンズリーグ制覇の偉業を成し遂げました。しかし、その栄光の裏で八百長スキャンダルが発覚し、タイトル剥奪と2部降格を経験するなど、波乱万丈の歴史を持つクラブです。
4位タイ|ASモナコ & FCナント – リーグを彩る強豪
優勝回数8回で並ぶのが、ASモナコとFCナントです。ASモナコはタックス・ヘイブン(租税回避地)である公国を本拠地とし、豊富な資金力で度々リーグを制覇してきました。近年では2016-17シーズンに若きエムバペを擁してPSGの支配を打ち破ったのが記憶に新しいです。
FCナントもまた、フランスサッカー史に名を刻む名門です。安定した育成システムを武器に、リーグアンの歴史を通じて常に上位争いを演じてきました。
6位タイ|オリンピック・リヨン & FCジロンダン・ボルドー & スタッド・ランス
優勝7回のオリンピック・リヨンは、2000年代にリーグアン史上唯一となる「7連覇」を達成したことで知られています。当時のリヨンは、ジュニーニョ・ペルナンブカーノらスター選手を擁し、無敵の王国を築きました。
優勝6回のFCジロンダン・ボルドーとスタッド・ランスも、リーグの歴史を語る上で欠かせません。特にスタッド・ランスは1950年代から60年代にかけてリーグを支配した、フランスサッカー初期の偉大な王者です。
歴代優勝クラブ一覧表
全優勝クラブの回数を以下の表にまとめます。
| クラブ名 | 優勝回数 | 準優勝回数 |
| パリ・サンジェルマン | 13 | 9 |
|---|---|---|
| ASサンテティエンヌ | 10 | 3 |
| オリンピック・マルセイユ | 9 | 13 |
| ASモナコ | 8 | 7 |
| FCナント | 8 | 7 |
| オリンピック・リヨン | 7 | 5 |
| FCジロンダン・ボルドー | 6 | 9 |
| スタッド・ランス | 6 | 3 |
| LOSCリール | 4 | 6 |
| OGCニース | 4 | 3 |
| FCソショー | 2 | 3 |
| FCセト34 | 2 | 0 |
| RCランス | 1 | 5 |
| RCストラスブール | 1 | 1 |
| AJオセール | 1 | 1 |
| モンペリエHSC | 1 | 0 |
| COルーベ=トゥールコワン | 1 | 0 |
| RCパリ | 1 | 0 |
| オランピック・リロワ | 1 | 0 |
時代を築いた「王朝」たち|リーグアンの歴史
リーグアンの歴史は、特定のクラブがリーグを支配した「王朝」の連続として見ることができます。ここでは、時代ごとに覇権を握った主要なクラブを紹介します。
初期の覇者とスタッド・ランスの台頭 (1932年~1960年代)
1932年に創設されたフランスプロリーグの初代王者は、オランピック・リロワでした。第二次世界大戦による中断を経て、戦後のフランスサッカー界で最初の偉大な王朝を築いたのがスタッド・ランスです。
レイモン・コパやジュスト・フォンテーヌといった伝説的選手を擁し、1949年から1962年にかけて6度のリーグ優勝を果たしました。ヨーロッパの舞台でも強さを見せ、創設間もないヨーロピアン・カップ(現CL)で2度の決勝進出を果たしています。
サンテティエンヌの黄金時代 (1960年代~1981年)
1960年代から70年代は、ASサンテティエンヌの時代でした。この約20年間で9回のリーグ優勝を積み重ね、通算優勝回数を「10」の大台に乗せます。
特に1967年からの4連覇は、彼らの支配力を象徴するものでした。1976年にはヨーロピアン・カップ決勝に進出(バイエルン・ミュンヘンに敗戦)し、フランス国民を熱狂させました。
マルセイユの野望と転落 (1980年代~1990年代)
1980年代後半、実業家ベルナール・タピ会長の下、オリンピック・マルセイユが新たな支配者となります。豊富な資金でスター選手を集め、1989年からリーグ4連覇を達成しました。
その集大成として1993年にUEFAチャンピオンズリーグを制覇しますが、直後に国内リーグでの八百長スキャンダルが発覚します。これにより1992-93シーズンのリーグタイトルは剥奪され、クラブは2部へ強制降格となりました。
オリンピック・リヨンの前人未到7連覇 (2001年~2008年)
21世紀に入り、リーグアンはオリンピック・リヨンによる一強時代を迎えます。2001-02シーズンにクラブ史上初のリーグ優勝を飾ると、そこから2007-08シーズンまで前人未到の「7連覇」を達成しました。
私が考えるリヨンの強さの秘訣は、ジャン=ミシェル・オラス会長による卓越した経営手腕です。ジュニーニョやベンゼマといったスター選手を擁する強さと、有望な若手を育成・売却するサイクルの両立を実現していました。
QSI革命|パリ・サンジェルマンの支配 (2011年~現在)
2011年、カタールの投資ファンド「QSI」によるパリ・サンジェルマン買収が、リーグの勢力図を完全に塗り替えます。PSGは莫大なオイルマネーを背景に、世界的なスーパークラブへと変貌しました。
イブラヒモビッチやエムバペといったスーパースターが次々と加入し、2012-13シーズン以降の13シーズンで10回のリーグ優勝を果たしています。このPSGの圧倒的な支配を、ASモナコ(2016-17)やLOSCリール(2020-21)が時折打ち破ることが、リーグの大きな見どころとなっています。
リーグアンの記録保持者たち
リーグアンの長い歴史の中で打ち立てられた、不滅の記録の数々を紹介します。
チームが打ち立てた金字塔
チームとしての偉大な記録は、その時代の強さを雄弁に物語ります。
- 最多連続優勝記録
- 7連覇|オリンピック・リヨン (2001-02 ~ 2007-08)
- 4連覇を達成したクラブ
- ASサンテティエンヌ (1966-67 ~ 1969-70)
- オリンピック・マルセイユ (1988-89 ~ 1991-92)
- パリ・サンジェルマン (2012-13 ~ 2015-16)
- シーズン最多勝ち点
- 96|パリ・サンジェルマン (2015-16)
- 95|ASモナコ (2016-17)
個人が輝かせた記録
リーグの歴史は、偉大なストライカーたちの歴史でもあります。
- 通算最多得点記録
- 299ゴール|デリオ・オニス (モナコ、トゥールなどで活躍)
- シーズン最多得点記録(現代)
- 38ゴール|ズラタン・イブラヒモビッチ (PSG, 2015-16)
近年の歴代得点王一覧
近年のリーグを支配したストライカーたちです。
| シーズン | 選手名 | 所属クラブ | 得点数 |
| 2010–11 | ムサ・ソウ | リール | 25 |
|---|---|---|---|
| 2011–12 | オリヴィエ・ジルー | モンペリエ | 21 |
| ネネ | パリ・サンジェルマン | 21 | |
| 2012–13 | ズラタン・イブラヒモビッチ | パリ・サンジェルマン | 30 |
| 2013–14 | ズラタン・イブラヒモビッチ | パリ・サンジェルマン | 26 |
| 2014–15 | アレクサンドル・ラカゼット | リヨン | 27 |
| 2015–16 | ズラタン・イブラヒモビッチ | パリ・サンジェルマン | 38 |
| 2016–17 | エディンソン・カバーニ | パリ・サンジェルマン | 35 |
| 2017–18 | エディンソン・カバーニ | パリ・サンジェルマン | 28 |
| 2018–19 | キリアン・エムバペ | パリ・サンジェルマン | 33 |
| 2019–20 | ウィサム・ベン・イェデル | モナコ | 18 |
| キリアン・エムバペ | パリ・サンジェルマン | 18 | |
| 2020–21 | キリアン・エムバペ | パリ・サンジェルマン | 27 |
| 2021–22 | キリアン・エムバペ | パリ・サンジェルマン | 28 |
| 2022–23 | キリアン・エムバペ | パリ・サンジェルマン | 29 |
| 2023–24 | キリアン・エムバペ | パリ・サンジェルマン | 27 |
【完全版】1932年からの全シーズン優勝クラブリスト
1932年のリーグ創設から昨シーズンまでの、全シーズンの優勝、準優勝、3位クラブを一覧表にまとめました。フランスサッカーの歴史の変遷をご覧ください。
| シーズン | 優勝 | 準優勝 | 3位 |
| 1932–33 | オランピック・リロワ | カンヌ | RCパリ |
|---|---|---|---|
| 1933–34 | セト | フィーヴ | マルセイユ |
| 1934–35 | ソショー | ストラスブール | RCパリ |
| 1935–36 | RCパリ | オランピック・リロワ | ストラスブール |
| 1936–37 | マルセイユ | ソショー | RCパリ |
| 1937–38 | ソショー | マルセイユ | セト |
| 1938–39 | セト | マルセイユ | RCパリ |
| 1939–45 | 第二次世界大戦により中断 | ||
| 1945–46 | リール | サンテティエンヌ | ルーベ |
| 1946–47 | ルーベ=トゥールコワン | スタッド・ランス | ストラスブール |
| 1947–48 | マルセイユ | リール | スタッド・ランス |
| 1948–49 | スタッド・ランス | リール | マルセイユ |
| 1949–50 | ボルドー | リール | スタッド・ランス |
| 1950–51 | ニース | リール | ル・アーヴル |
| 1951–52 | ニース | ボルドー | リール |
| 1952–53 | スタッド・ランス | ソショー | ボルドー |
| 1953–54 | リール | スタッド・ランス | ボルドー |
| 1954–55 | スタッド・ランス | トゥールーズ | RCランス |
| 1955–56 | ニース | RCランス | モナコ |
| 1956–57 | サンテティエンヌ | RCランス | スタッド・ランス |
| 1957–58 | スタッド・ランス | ニーム | モナコ |
| 1958–59 | ニース | ニーム | RCパリ |
| 1959–60 | スタッド・ランス | ニーム | RCパリ |
| 1960–61 | モナコ | RCパリ | スタッド・ランス |
| 1961–62 | スタッド・ランス | RCパリ | ニーム |
| 1962–63 | モナコ | スタッド・ランス | スダン |
| 1963–64 | サンテティエンヌ | モナコ | RCランス |
| 1964–65 | ナント | ボルドー | ヴァランシエンヌ |
| 1965–66 | ナント | ボルドー | ヴァランシエンヌ |
| 1966–67 | サンテティエンヌ | ナント | アンジェ |
| 1967–68 | サンテティエンヌ | ニース | ソショー |
| 1968–69 | サンテティエンヌ | ボルドー | メス |
| 1969–70 | サンテティエンヌ | マルセイユ | スダン |
| 1970–71 | マルセイユ | サンテティエンヌ | ナント |
| 1971–72 | マルセイユ | ニーム | ソショー |
| 1972–73 | ナント | ニース | マルセイユ |
| 1973–74 | サンテティエンヌ | ナント | リヨン |
| 1974–75 | サンテティエンヌ | マルセイユ | リヨン |
| 1975–76 | サンテティエンヌ | ニース | ソショー |
| 1976–77 | ナント | RCランス | バスティア |
| 1977–78 | モナコ | ナント | ストラスブール |
| 1978–79 | ストラスブール | ナント | サンテティエンヌ |
| 1979–80 | ナント | ソショー | サンテティエンヌ |
| 1980–81 | サンテティエンヌ | ナント | ボルドー |
| 1981–82 | モナコ | サンテティエンヌ | ソショー |
| 1982–83 | ナント | ボルドー | パリ・サンジェルマン |
| 1983–84 | ボルドー | モナコ | オセール |
| 1984–85 | ボルドー | ナント | モナコ |
| 1985–86 | パリ・サンジェルマン | ナント | ボルドー |
| 1986–87 | ボルドー | マルセイユ | トゥールーズ |
| 1987–88 | モナコ | ボルドー | モンペリエ |
| 1988–89 | マルセイユ | パリ・サンジェルマン | モナコ |
| 1989–90 | マルセイユ | ボルドー | モナコ |
| 1990–91 | マルセイユ | モナコ | オセール |
| 1991–92 | マルセイユ | モナコ | パリ・サンジェルマン |
| 1992–93 | — (タイトル剥奪)¹ | パリ・サンジェルマン | モナコ |
| 1993–94 | パリ・サンジェルマン | マルセイユ | オセール |
| 1994–95 | ナント | リヨン | パリ・サンジェルマン |
| 1995–96 | オセール | パリ・サンジェルマン | モナコ |
| 1996–97 | モナコ | パリ・サンジェルマン | ナント |
| 1997–98 | RCランス | メス | モナコ |
| 1998–99 | ボルドー | マルセイユ | リヨン |
| 1999–00 | モナコ | パリ・サンジェルマン | リヨン |
| 2000–01 | ナント | リヨン | リール |
| 2001–02 | リヨン | RCランス | オセール |
| 2002–03 | リヨン | モナコ | マルセイユ |
| 2003–04 | リヨン | パリ・サンジェルマン | モナコ |
| 2004–05 | リヨン | リール | モナコ |
| 2005–06 | リヨン | ボルドー | リール |
| 2006–07 | リヨン | マルセイユ | トゥールーズ |
| 2007–08 | リヨン | ボルドー | マルセイユ |
| 2008–09 | ボルドー | マルセイユ | リヨン |
| 2009–10 | マルセイユ | リヨン | オセール |
| 2010–11 | リール | マルセイユ | リヨン |
| 2011–12 | モンペリエ | パリ・サンジェルマン | リール |
| 2012–13 | パリ・サンジェルマン | マルセイユ | リヨン |
| 2013–14 | パリ・サンジェルマン | モナコ | リール |
| 2014–15 | パリ・サンジェルマン | リヨン | モナコ |
| 2015–16 | パリ・サンジェルマン | リヨン | モナコ |
| 2016–17 | モナコ | パリ・サンジェルマン | ニース |
| 2017–18 | パリ・サンジェルマン | モナコ | リヨン |
| 2018–19 | パリ・サンジェルマン | リール | リヨン |
| 2019–20 | パリ・サンジェルマン | マルセイユ | レンヌ |
| 2020–21 | リール | パリ・サンジェルマン | モナコ |
| 2021–22 | パリ・サンジェルマン | マルセイユ | モナコ |
| 2022–23 | パリ・サンジェルマン | RCランス | マルセイユ |
| 2023–24 | パリ・サンジェルマン | モナコ | ブレスト |
| 2024–25 | パリ・サンジェルマン | マルセイユ | (シーズン途中) |
まとめ
フランス・リーグアンの歴史は、まさに「王朝」の興亡史です。スタッド・ランス、サンテティエンヌ、マルセイユ、リヨン、そして現代のパリ・サンジェルマンと、時代ごとに絶対的な王者が入れ替わってきました。
特にPSGの台頭は、リーグの構図を大きく変えました。彼らの圧倒的な財政力に対し、他のクラブがどう対抗していくのかが、今後のリーグアンの大きな焦点となります。
私が確信しているのは、たとえ一強の時代であっても、モナコやリールが成し遂げたように、戦術や育成によって王者を打ち破るドラマは必ず生まれるということです。この歴史あるリーグの覇権争いが、今後どのような新たな物語を紡いでいくのか、注目し続けたいと思います。

