MENU
草壁シトヒ
ブロガー
普通の会社員でブログ歴は10年以上。

<趣味・得意分野>
⇨スポーツ観戦:F1、サッカー、野球
⇨テック分野が好物:AI、スマホ、通信

WEリーグの観客数はJ3レベル?メディア露出不足と戦う成長戦略

当ページのリンクには広告が含まれています。

WEリーグが開幕して4シーズンが経過しました。私が長年女子サッカーを取材してきた中で、プロリーグの発足は悲願であり、大きな期待を寄せていました。しかし、その観客動員数の現状に目を向けると、厳しい現実が浮かび上がってきます。

年間総入場者数は過去最多を記録するなど明るいニュースもある一方で、リーグ全体の平均観客数はJ3リーグと同水準に留まっているのです。

この記事では、WEリーグが抱える課題を深掘りし、サンフレッチェ広島レジーナの成功事例や海外リーグの動向から、真の成長を遂げるための戦略を探ります。

タップできる目次

WEリーグの観客動員数の現状|J3レベルという厳しい現実

WEリーグの観客動員数は、シーズンを追うごとに複雑な様相を呈しています。一部のクラブが記録的な数字を叩き出す一方で、リーグ全体としては依然として厳しい状況が続いています。

シーズンごとの推移|V字回復の裏に潜む課題

WEリーグの観客動員数は、まさにジェットコースターのような軌跡を辿ってきました。プロ化への期待から初年度(2021-22)は平均1,560人を記録したものの、2年目には1,326人へと約15%も減少しました。3年目、4年目と回復基調にあり、2024-25シーズンにはリーグ戦平均で2,138人に達し、V字回復を遂げたように見えます。

しかし、この数字を鵜呑みにすることはできません。この回復は、リーグ全体の地力が向上した結果ではなく、一部の好調なクラブが平均値を強力に引き上げたことによる「脆弱な回復」だからです。実際、クラブ間の格差は拡大しており、リーグの健全性が一部のクラブの好調に依存している構造的な問題を内包しています。

シーズン年間総入場者数リーグ戦平均入場者数
2021-22171,601人1,560人
2022-23180,284人1,401人
2023-24271,878人1,723人
2024-25337,290人2,138人

クラブ間の深刻な格差|「持つ者」と「持たざる者」

リーグ全体の平均値の裏側では、クラブ間の観客動員数における深刻な格差が進行しています。これは単なる一時的なものではなく、構造的な問題に根差しています。

2024-25シーズン、サンフレッチェ広島レジーナは平均5,482人という驚異的な数字を達成し、リーグ目標を唯一クリアしました。その一方で、最少観客動員試合は数百人レベルに留まるなど、その差は歴然です。

私が考えるこの格差の根本的な要因は、男子Jリーグクラブとの連携形態にあります。広島、セレッソ大阪、浦和といった成功を収めているクラブは、いずれも強力なJ1クラブを親組織に持つ「男女統合型クラブ」です。これらのクラブは、男子チームが築き上げたブランド力、資金、そして確立されたファンベースという莫大な資産を活用できるのです。対照的に、独立採算型のクラブやリソースの乏しいクラブは、この恩恵を受けられず苦戦を強いられています。これは各クラブの努力だけでは埋めがたい、リーグ全体で取り組むべき課題です。

目標「平均5,000人」の功罪|数字が語る理想と現実

WEリーグは発足当初から「1試合平均5,000人」という野心的な目標を掲げてきました。しかし、4シーズンを経た今、この目標と現実の間には大きな乖離が存在します。

リーグ全体の平均観客数は一度も目標に近づいたことはなく、広島を除けば、どのクラブも達成には程遠いのが実情です。私が懸念するのは、この達成困難な目標が、WEリーグの「失敗物語」を内外に発信してしまっている点です。観客の絶対数よりも、スタジアムの「収容率」を高め、熱気ある空間を創出することの方が重要ではないでしょうか。

例えば、3,000人収容のスタジアムが2,500人の観客で埋まれば、それは熱狂的な雰囲気となり、テレビを通じても魅力的に映ります。しかし、4万人のスタジアムに4,000人では空席が目立ち、活気のない印象を与えかねません。戦略的な焦点を「絶対数」から「体験の質」へと転換し、クラブの規模に応じた現実的な目標を設定することが、持続可能な成長への第一歩です。

なぜ観客が増えないのか?メディア露出不足と構造的な問題

観客動員数が伸び悩む背景には、いくつかの根深い問題が存在します。特にメディア露出の不足は、リーグの成長を妨げる最大の足かせとなっています。

致命的なメディア露出の不足|知られなければ存在しないのと同じ

私がWEリーグの最大の課題だと考えているのが、このメディア露出の圧倒的な不足です。主要なテレビのスポーツニュースや一般紙での扱いは極めて限定的で、多くの人々にとってWEリーグは「存在しない」のも同然の状態です。

メディアへの露出がなければ、リーグの魅力的な物語を世間に伝えることはできません。スター選手が生まれる土壌も育たず、新たなスポンサーを惹きつけることも困難になります。リーグはメディアからの受動的な報道を待つのではなく、自ら魅力的なコンテンツを制作し、積極的に発信していく戦略へと舵を切る必要があります。

Jリーグとの共食い|秋春制がもたらすスケジュールの罠

WEリーグが採用する「秋春制」は、ヨーロッパの主要リーグに合わせたものですが、国内においては大きなデメリットを生んでいます。それは、Jリーグとのスケジュールの競合です。

WEリーグのシーズンが佳境を迎える春先は、Jリーグのシーズン開幕と重なります。秋のシーズン序盤も、Jリーグが優勝争いのクライマックスを迎える時期です。これにより、ファンやメディアの関心が分散し、結果的にWEリーグの観客動員が伸び悩む「カニバリゼーション(共食い)」が発生しているのです。Jリーグとの関係性を再定義し、共存共栄できるスケジュールを模索することも、重要な戦略課題と言えるでしょう。

チケット戦略の落とし穴|無料招待がブランド価値を蝕む

観客数を一時的に増やすために、無料招待や大幅な割引チケットに頼るケースが見受けられます。確かに、これは新規顧客にスタジアムへ足を運んでもらうきっかけにはなります。

しかし、私が警鐘を鳴らしたいのは、この戦略への過度な依存です。安易な無料招待は、「WEリーグの試合は無料で見られるもの」という認識を植え付け、プロダクトそのものの価値を毀損するリスクを伴います。定価でチケットを購入してくれるファンをないがしろにすることにも繋がりかねません。目先の数字に囚われるのではなく、有料でも観たいと思わせる魅力的な試合体験を提供し、持続可能なファンベースを築くことこそが本質です。

成功事例に学ぶ!WEリーグの成長戦略

課題は山積みですが、希望の光もあります。国内外の成功事例を分析することで、WEリーグが進むべき道筋が見えてきます。

広島モデル|新スタジアムと「祭り」が生んだ熱狂

近年のWEリーグにおける最大の成功事例は、間違いなくサンフレッチェ広島レジーナです。この成功は、ハード(インフラ)とソフト(マーケティング)への戦略的投資が見事に噛み合った結果です。

ハード|エディオンピースウイング広島という触媒

成功の最大の起爆剤となったのは、アクセス抜群の新スタジアム「エディオンピースウイング広島」への移転です。このスタジアム自体が強力な集客装置となり、観客数を劇的に押し上げました。

ソフト|選手が主役の「祭り」型マーケティング

広島の凄みは、ハードの刷新だけに留まらなかった点にあります。選手たちが自ら企画・運営するマーケティングプロジェクト「自由すぎる女王の大祭典」を展開しました。選手が企業や学校を訪問し、SNSで発信するなど、草の根の広報活動を徹底したのです。その結果、浦和戦ではリーグ記録となる2万人超の観客を集めることに成功しました。この「広島モデル」は、成功が再現可能な「プロセス」であることを示しており、他のクラブが学ぶべき点は非常に多いです。

ダブルヘッダー効果|借り物の観客をファンに変えるために

WEリーグの歴代最多観客動員記録である26,605人は、J2リーグの試合と連続開催された「変則ダブルヘッダー」で生まれました。この戦略は、短期間で観客数を増やし、新たなファン層にリーグをアピールする上で極めて有効です。

しかし、これに依存することにはリスクも伴います。WEリーグが男子の試合の「前座」という認識を強化しかねないからです。重要なのは、ダブルヘッダーでスタジアムに来てくれた「借り物の観客」を、いかにしてWEリーグの「真のファン」へと転換させるかです。あくまで強力な戦術の一つとして捉え、独立したエンターテインメントとしての価値を高めていく努力が求められます。

順位観客数対戦カード会場主な成功要因
126,605人千葉L vs 大宮V国立競技場J2との変則ダブルヘッダー
221,524人S広島R vs I神戸国立競技場WEリーグカップ決勝
320,156人S広島R vs 浦和Eピース新スタジアム効果、祭り型マーケティング

海外リーグの成功方程式|NWSLとWSLから何を学ぶか

目を海外に向けると、女子サッカーリーグの成功モデルが見えてきます。アメリカのNWSLとイングランドのWSLは、WEリーグが学ぶべき重要な示唆に富んでいます。

アメリカNWSL|投資主導型モデル

NWSLの平均観客数は1万人を超え、巨額の放映権契約を締結するなど、驚異的な成長を遂げています。その原動力は、将来的な価値向上を見越した積極的な「先行投資」です。赤字を前提にマーケティングや施設に投資し、リーグ全体の価値を爆発的に高めるというベンチャーキャピタル的な戦略は、WEリーグの保守的なアプローチとは対照的です。

イングランドWSL|統合エコシステムモデル

WSLの成功は、男子クラブとの「統合されたマーケティング」にあります。女子チームをクラブ全体の不可欠な一部と位置づけ、男子チームのブランドやファンベースを最大限に活用しています。女子チームの応援が、クラブのファンであることの「必須要素」となるような文化を醸成しているのです。

リーグ平均観客動員数(直近)主要ビジネスモデル
WEリーグ2,138人運営の持続可能性重視
NWSL (米国)11,235人ベンチャーキャピタル/成長投資
WSL (イングランド)7,363人統合クラブエコシステム

まとめ|WEリーグが真の成長を遂げるために

WEリーグの観客動員数はJ3レベルという厳しい現実に直面しており、メディア露出不足やクラブ間格差といった根深い課題を抱えています。しかし、私は決して悲観していません。

サンフレッチェ広島レジーナが見せたように、戦略的な投資と地域を巻き込む熱意があれば、爆発的な成長は実現できます。ダブルヘッダーのような起爆剤を有効に活用しつつ、借り物の観客を本当のファンに変えていく地道な努力も不可欠です。

そして何より、NWSLやWSLの成功が示すように、マインドセットの転換が求められます。短期的な収益性にとらわれるのではなく、リーグの未来価値を高めるための「戦略的投資」に踏み切る勇気が必要です。データに基づいたマーケティングを導入し、成功事例をリーグ全体で共有し、メディアが取り上げたくなるような「物語」を自ら創造していく。これらの改革を実行することが、WEリーグが真のプロリーグとして飛躍するための唯一の道だと、私は確信しています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
タップできる目次