スペインが誇るサッカーリーグ、ラ・リーガ。このリーグで「得点王」と呼ばれることは、ストライカーにとって最高の栄誉です。私が考えるに、この「得点王」には二つの側面があります。
一つは、リーグ史に名を刻む「通算得点王」。もう一つは、そのシーズンで最も輝いた選手に贈られる「シーズン得点王」、通称「ピチーチ賞」です。この記事では、ラ・リーガの偉大なゴールゲッターたちを、この二つの側面から徹底的に解説します。

ラ・リーガの頂点|通算得点ランキング
ラ・リーガの歴史で最も多くのゴールを積み重ねてきた選手たち。その偉大な記録は、彼らの持続性と実力の証明です。
ラ・リーガ通算得点ランキング TOP10
ここに、ラ・リーガの歴史に名を刻むトップ10の選手たちを紹介します。
| 順位 | 選手名 | ゴール数 | 出場試合数 | ゴール/試合率 | 主な所属クラブ |
| 1 | リオネル・メッシ | 474 | 520 | 0.91 | バルセロナ |
|---|---|---|---|---|---|
| 2 | クリスティアーノ・ロナウド | 311 | 292 | 1.07 | レアル・マドリード |
| 3 | テルモ・サラ | 251 | 277 | 0.91 | アスレティック・ビルバオ |
| 4 | カリム・ベンゼマ | 238 | 439 | 0.54 | レアル・マドリード |
| 5 | ウーゴ・サンチェス | 234 | 347 | 0.67 | A・マドリード R・マドリード他 |
| 6 | ラウール | 228 | 550 | 0.41 | レアル・マドリード |
| 7 | アルフレッド・ディ・ステファノ | 227 | 329 | 0.69 | R・マドリード エスパニョール |
| 8 | セサル | 221 | 353 | 0.63 | バルセロナ, グラナダ他 |
| 9 | キニ | 219 | 448 | 0.49 | スポルティング・ヒホン バルセロナ |
| 10 | パヒーニョ | 212 | 278 | 0.76 | セルタ, R・マドリード デポルティーボ |
メッシとロナウド|統計を塗り替えた二大巨頭
このリストの頂点に立つ二人の選手は、ラ・リーガの常識を根底から覆しました。クリスティアーノ・ロナウドのゴール/試合率「1.07」は、出場試合数(292試合)を上回る驚異的な数値です。
リオネル・メッシは、歴代3位のテルモ・サラと同じ「0.91」という高い比率を、サラのほぼ倍にあたる520試合という長期間にわたって維持しました。メッシの通算474ゴールは、圧倒的な効率性と持続性の両方を兼ね備えた、まさに前人未到の記録です。
偉大なストライカーたちの多様性
トップ10には、様々なタイプのストライカーが名を連ねています。ウーゴ・サンチェスやパヒーニョのように、複数のクラブで結果を出し続けた選手もいます。
一方で、カリム・ベンゼマ(0.54)やラウール(0.41)は、ゴール/試合率こそメッシやロナウドに及びません。これは彼らが純粋なフィニッシャーとしてだけでなく、味方を活かす「ファシリテーター(促進者)」としての役割も担っていた証拠です。彼らの順位は、ラウール550試合、ベンゼマ439試合という、驚異的な出場試合数が示す適応力と貢献度の高さを物語っています。
シーズンの覇者|ピチーチ賞の歴史
通算記録が「持続性」の証であるなら、シーズン得点王に贈られる「ピチーチ賞」は、その年を支配した「個の力」の象徴です。
ピチーチ賞とは?
ピチーチ賞は、スペインのスポーツ紙『マルカ』が主催する賞です。その名前は、アスレティック・ビルバオの伝説的ストライカー、ラファエル・”ピチーチ”・モレノに由来します。
1952-53シーズンから正式に授与が始まりましたが、『マルカ』紙はリーグ創設の1929年まで遡り、各シーズンの得点王をピチーチ賞受賞者として認定しています。
ピチーチ賞 歴代受賞回数ランキング
最も多くこの栄誉を手にしたのは誰か。受賞回数のランキングを見てみましょう。
| 順位 | 選手名 | 受賞回数 |
| 1 | リオネル・メッシ | 8回 |
| 2 | テルモ・サラ | 6回 |
| 3 | アルフレッド・ディ・ステファノ | 5回 |
| 4 | ウーゴ・サンチェス | 5回 |
| 5 | キニ | 5回 |
| 6 | クリスティアーノ・ロナウド | 3回 |
メッシの圧倒的支配|8回の受賞と5回連続
ここでもリオネル・メッシが頂点に立っています。彼はテルモ・サラが長年保持していた6回という記録を更新し、通算8回のピチーチ賞を獲得しました。
私が特に驚くのは、その連続受賞記録です。ウーゴ・サンチェスが達成した4シーズン連続受賞(1984-88)も偉大ですが、メッシは2016-17シーズンから2020-21シーズンまで、なんと5シーズン連続で得点王に輝いています。
1シーズン50ゴールという「異常値」
ラ・リーガの1シーズン最多得点記録は、2011-12シーズンにリオネル・メッシが達成した「50ゴール」です。これはまさに異常値と言える記録です。
しかし、このシーズンには興味深い事実があります。メッシが50ゴールを挙げたにもかかわらず、バルセロナはリーグ優勝を逃し、タイトルはレアル・マドリードが獲得しました。個人の記録が、必ずしもチームの成功に直結しないという、サッカーの奥深さを示す一例です。
得点王の進化|20ゴール・20アシスト
メッシは得点王の定義すら変えてしまいました。2019-20シーズン、彼は25ゴールと22アシストを記録しました。
これにより、彼はラ・リーガ史上初めて「1シーズンに20ゴール以上かつ20アシスト以上」を達成した唯一の選手となりました。このシーズンの25ゴールは、彼が受賞した中では最も少ない得点数です。これは、彼が純粋なスコアラーから、チーム全体のチャンスを生み出すクリエイターへと進化したことを示しています。
歴代得点王 全リストと新時代の到来
メッシとロナウドがリーグを去り、ラ・リーガの得点王レースは新たな時代を迎えています。
近年のピチーチ賞受賞者 (2019-2025)
メッシが2020-21シーズンに8度目の受賞を果たした後、得点王の顔ぶれは大きく変わりました。
- 2021-22|カリム・ベンゼマ(レアル・マドリード, 27ゴール)ロナウド退団後にエースへと変貌し、バロンドールも受賞しました。
- 2022-23|ロベルト・レヴァンドフスキ(バルセロナ, 23ゴール)移籍初年度で即座に結果を出し、得点王に輝きました。
- 2023-24|アルテム・ドフビク(ジローナ, 24ゴール)ジローナの躍進を象徴する受賞です。レアル・マドリードとバルセロナ以外のクラブからの受賞は15年ぶりでした。
- 2024-25|キリアン・エムバペ(レアル・マドリード, 31ゴール)レアル・マドリード加入初年度で、圧倒的な実力を見せつけました。
ドフビクの受賞で多様化したかに見えた得点王レースですが、エムバペの登場により、再び新たな「支配の時代」が始まるかもしれません。
【完全版】ピチーチ賞 歴代受賞者 全リスト
リーグ創設から現在までの、全ピチーチ賞受賞者を一覧で紹介します。
| シーズン | 選手名 | 所属クラブ | ゴール数 |
| 1929 | パコ・ビエンソバス | レアル・ソシエダ | 14 |
|---|---|---|---|
| 1929–30 | ギジェルモ・ゴロスティサ | アスレティック・ビルバオ | 19 |
| 1930–31 | バタ | アスレティック・ビルバオ | 27 |
| 1931–32 | ギジェルモ・ゴロスティサ (2) | アスレティック・ビルバオ | 12 |
| 1932–33 | マヌエル・オリバレス | レアル・マドリード | 16 |
| 1933–34 | イシドロ・ランガラ | オビエド | 27 |
| 1934–35 | イシドロ・ランガラ (2) | オビエド | 26 |
| 1935–36 | イシドロ・ランガラ (3) | オビエド | 27 |
| 1939–40 | ビクトリオ・ウナムノ | アスレティック・ビルバオ | 20 |
| 1940–41 | プルデン | アトレティコ・マドリード | 30 |
| 1941–42 | ムンド | バレンシア | 27 |
| 1942–43 | マリアーノ・マルティン | バルセロナ | 32 |
| 1943–44 | ムンド (2) | バレンシア | 27 |
| 1944–45 | テルモ・サラ | アスレティック・ビルバオ | 19 |
| 1945–46 | テルモ・サラ (2) | アスレティック・ビルバオ | 24 |
| 1946–47 | テルモ・サラ (3) | アスレティック・ビルバオ | 34 |
| 1947–48 | パヒーニョ | セルタ | 23 |
| 1948–49 | セサル | バルセロナ | 28 |
| 1949–50 | テルモ・サラ (4) | アスレティック・ビルバオ | 25 |
| 1950–51 | テルモ・サラ (5) | アスレティック・ビルバオ | 38 |
| 1951–52 | パヒーニョ (2) | レアル・マドリード | 28 |
| 1952–53 | テルモ・サラ (6) | アスレティック・ビルバオ | 24 |
| 1953–54 | アルフレッド・ディ・ステファノ | レアル・マドリード | 27 |
| 1954–55 | フアン・アルサ | セビージャ | 28 |
| 1955–56 | アルフレッド・ディ・ステファノ (2) | レアル・マドリード | 24 |
| 1956–57 | アルフレッド・ディ・ステファノ (3) | レアル・マドリード | 31 |
| 1957–58 | R・アロス / M・バデネス / A・ディ・ステファノ (4) | バレンシア / バジャドリード / R・マドリード | 19 |
| 1958–59 | アルフレッド・ディ・ステファノ (5) | レアル・マドリード | 23 |
| 1959–60 | フェレンツ・プスカシュ | レアル・マドリード | 26 |
| 1960–61 | フェレンツ・プスカシュ (2) | レアル・マドリード | 27 |
| 1961–62 | フアン・セミナリオ | サラゴサ | 25 |
| 1962–63 | フェレンツ・プスカシュ (3) | レアル・マドリード | 26 |
| 1963–64 | フェレンツ・プスカシュ (4) | レアル・マドリード | 20 |
| 1964–65 | カジェタノ・レ | バルセロナ | 25 |
| 1965–66 | ババII | エルチェ | 19 |
| 1966–67 | ワウド | バレンシア | 24 |
| 1967–68 | フィデル・ウリアルテ | アスレティック・ビルバオ | 22 |
| 1968–69 | アマンシオ / ホセ・E・ガラテ | レアル・マドリード / A・マドリード | 14 |
| 1969–70 | アマンシオ (2) / L・アラゴネス / ホセ・E・ガラテ (2) | R・マドリード / A・マドリード / A・マドリード | 16 |
| 1970–71 | ホセ・E・ガラテ (3) / カルレス・レシャック | A・マドリード / バルセロナ | 17 |
| 1971–72 | エンリケ・ポルタ | グラナダ | 20 |
| 1972–73 | マリアニン | オビエド | 19 |
| 1973–74 | キニ (2) | スポルティング・ヒホン | 20 |
| 1974–75 | キニ (3) | スポルティング・ヒホン | 21 |
| 1975–76 | キニ (4) | スポルティング・ヒホン | 21 |
| 1976–77 | マリオ・ケンペス | バレンシア | 24 |
| 1977–78 | マリオ・ケンペス (2) | バレンシア | 28 |
| 1978–79 | ハンス・クランクル | バルセロナ | 29 |
| 1979–80 | キニ (5) | スポルティング・ヒホン | 24 |
| 1980–81 | キニ (6) | バルセロナ | 20 |
| 1981–82 | キニ (7) | バルセロナ | 27 |
| 1982–83 | バルタサール | セルタ | 28 |
| 1983–84 | ホルヘ・ダ・シルバ / フアニート | バジャドリード / R・マドリード | 17 |
| 1984–85 | ウーゴ・サンチェス | アトレティコ・マドリード | 19 |
| 1985–86 | ウーゴ・サンチェス (2) | レアル・マドリード | 22 |
| 1986–87 | ウーゴ・サンチェス (3) | レアル・マドリード | 34 |
| 1987–88 | ウーゴ・サンチェス (4) | レアル・マドリード | 29 |
| 1988–89 | バルタサール (2) | アトレティコ・マドリード | 35 |
| 1989–90 | ウーゴ・サンチェス (5) | レアル・マドリード | 38 |
| 1990–91 | エミリオ・ブトラゲーニョ | レアル・マドリード | 19 |
| 1991–92 | マノロ | アトレティコ・マドリード | 27 |
| 1992–93 | ベベット | デポルティーボ | 29 |
| 1993–94 | ロマーリオ | バルセロナ | 30 |
| 1994–95 | イバン・サモラーノ | レアル・マドリード | 28 |
| 1995–96 | フアン・アントニオ・ピッツィ | テネリフェ | 31 |
| 1996–97 | ロナウド | バルセロナ | 34 |
| 1997–98 | クリスティアン・ヴィエリ | アトレティコ・マドリード | 24 |
| 1998–99 | ラウール | レアル・マドリード | 25 |
| 1999–00 | サルバ・バジェスタ | ラシン・サンタンデール | 27 |
| 2000–01 | ラウール (2) | レアル・マドリード | 24 |
| 2001–02 | ディエゴ・トリスタン | デポルティーボ | 21 |
| 2002–03 | ロイ・マカーイ | デポルティーボ | 29 |
| 2003–04 | ロナウド (2) | レアル・マドリード | 25 |
| 2004–05 | ディエゴ・フォルラン | ビジャレアル | 25 |
| 2005–06 | サミュエル・エトー | バルセロナ | 26 |
| 2006–07 | ルート・ファン・ニステルローイ | レアル・マドリード | 25 |
| 2007–08 | ダニ・グイサ | マジョルカ | 27 |
| 2008–09 | ディエゴ・フォルラン (2) | アトレティコ・マドリード | 32 |
| 2009–10 | リオネル・メッシ | バルセロナ | 34 |
| 2010–11 | クリスティアーノ・ロナウド | レアル・マドリード | 40 |
| 2011–12 | リオネル・メッシ (2) | バルセロナ | 50 |
| 2012–13 | リオネル・メッシ (3) | バルセロナ | 46 |
| 2013–14 | クリスティアーノ・ロナウド (2) | レアル・マドリード | 31 |
| 2014–15 | クリスティアーノ・ロナウド (3) | レアル・マドリード | 48 |
| 2015–16 | ルイス・スアレス | バルセロナ | 40 |
| 2016–17 | リオネル・メッシ (4) | バルセロナ | 37 |
| 2017–18 | リオネル・メッシ (5) | バルセロナ | 34 |
| 2018–19 | リオネル・メッシ (6) | バルセロナ | 36 |
| 2019–20 | リオネル・メッシ (7) | バルセロナ | 25 |
| 2020–21 | リオネル・メッシ (8) | バルセロナ | 30 |
| 2021–22 | カリム・ベンゼマ | レアル・マドリード | 27 |
| 2022–23 | ロベルト・レヴァンドフスキ | バルセロナ | 23 |
| 2023–24 | アルテム・ドフビク | ジローナ | 24 |
| 2024–25 | キリアン・エムバペ | レアル・マドリード | 31 |
まとめ
ラ・リーガの得点王の歴史は、そのままリーグの歴史の変遷を示しています。テルモ・サラやディ・ステファノらレジェンドの時代から、ウーゴ・サンチェスの連続受賞、90年代以降の国際的なスーパースターの台頭まで、様々な時代がありました。
中でも、メッシとC・ロナウドが競い合った2010年代は、50ゴールや48ゴールといった数字が飛び交う「統計的特異点」でした。彼らが去った後、リーグは一時的に「人間的な」ゴール数での争いに戻り、競争が多様化しました。
しかし、キリアン・エムバペの登場は、ラ・リーガが新たな「一極集中」の時代に入る予兆かもしれません。メッシが樹立した通算474ゴールという記録は、今後破られることが極めて難しい大記録です。この「更新不可能な通算記録」と、エムバペが切り開くかもしれない「新たな支配の時代」。この二つが、今後のラ・リーガの得点王レースを定義していくことになります。

